燕燕于飛



燕燕于飛   つばめが飛ぶ
差池其羽   羽を交わして。
之子于歸   あなたが行ってしまうのを
遠送于野   私はただ野に送るだけ。
瞻望弗及   はるか遠くを望んでも
泣涕如雨   涙はただ流れるだけ。

(『詩経』 「燕燕」)

   
 

  夕日が、広大な戦場を寒々と照らしていた。動くものは死体に集(たか)る鴉のみ。斜陽はもう半刻のうちに、西の彼方へと姿を隠してしまうだろう。  彼女は返り血に塗(まみ)れたまま、焼け枯れた梨の木に身をもたせ掛けている。そしてただぼんやりと、何を見つめるでもなく、その風景の中に在った。

―――何の為に―――

言葉にならない疑問と出したくもない答えが、黄昏の裡で交錯を続けている。 さりとて、それらを抱えたまま去ることもできず、彼女は只ただ、そこに在った。
だがその時。彼女は規則正しい足音が近づいてくるのに気が付いた。その足音の主を知っているもの であろうか、振り向きもしない。
足音は彼女のすぐ背後で止まると、重い音と共に何かを大地に突き立てた。

―――四聖大剣。

青く光を帯びた、導き神伏羲の持ち物。
その主は問いかける。

「女媧。そなたにはもう、分かっているのだろう―――」

だが女神は、それには応えもせず振り向きもしなかった。







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